今までの兼題

第1回第2回第3回第4回
第5回地球第6回第7回第8回
第9回第10回第11回第12回
第13回第14回第15回兄弟第16回
第17回第18回第19回第20回
第21回第22回第23回第24回
第25回第26回第27回第28回
第29回第30回第31回第32回
第33回第34回第35回第36回
第37回第38回第39回第40回
第41回広場第42回鉛筆第43回映画第44回路地、露地
第45回近江、淡海第46回時計第47回正座第48回手足
第49回引力第50回受信第51回凡人第52回書架・書棚
本棚・書庫
第53回進化第54回硝子第55回暗闇第56回猛犬
第57回坩堝第58回位置第59回青森第60回模様
第61回王様第62回四角第63回半島第64回懸垂
第65回全身第66回回転第67回珈琲第68回反対
第69回夫・妻第70回隣人第71回危険第72回書類
第73回眼鏡第74回午前・午後第75回人形第76回世界
第77回仲間第78回教室第79回椅子第80回阿吽
第81回土地第82回煙突第83回 第84回 
俳句投稿の受付は、終了いたしました。

兄じやはも糸切れし凧追ひしまま   平石和美

★昔語りのような語調が、一層哀愁を高める。いつまでもいつまでも凧を追いかけ、そのうち風になってしまったんじゃってな。だから春の風はときどき「帰りてー、帰りてー」って強く吹くんだと。(あき子)

弟にやさしき姉や春の風邪   以和於

★風邪をひいた弟にやさしく構う姉。弟の風邪はしかし、あまり重くはない。家のなかで、しゅんしゅんと鼻をすすりながら、ひとり遊びでもしているのだろう。いつもはやんちゃで怪獣のように思えていた弟が、実はこんなに小さい身体をしていたのだと姉はあらためて知る。(あき子)

名だけ知る妹の写真や風車   佳子

★見覚えがないほど、幼くして亡くなった妹である。妹がいた、という実感はないのだが、写真に残る自分に似通う顔立ちが、存在を確かにする。子を失った親の切なさとは違った、「もし妹が生きていたら」という姉妹の関係を時折夢想する。いつまでも幼いままの妹の空転する時間が、風車に凝縮される。(あき子)

妹の包帯白し冬薔薇   こうだなを

★作者は男なのか、女なのか、それによっても妹への情感は違ってくるかもしれない。しかし、どちらにしても、大方の妹への想いは「いとしさ、はかなさ」である。たまさかの包帯姿が、普段意識しない妹への情感を増幅させたのか、寒風にさらされている冬薔薇の白さが心に沁みるのである。(喜代子)

春の野にアベルを殺すカインかな   たかはし水生

★「アベルとカイン」は聖書に出てくる兄弟の話であり、殺人の話しでもある。神への捧げものとして、カインは農産物を、アベルは子羊をそれぞれ贈る。神はアベルと小羊にのみ興味を示したことから、カインは野原でアベルを殺してしまう。教訓は「怒ることがあっても、罪を犯してはなりません。日が暮れるまで怒ったままでいてはいけません。(エペソ4:26)」だという。不信心の私には、神の不平等な視線ばかりが気になる話だ。「春の野」のうららかな光りのなかで、激怒や激情に貫かれるカインの嫉妬こそ人間的なのではないか、とすら思えるのである。(あき子)

兄弟といふを持たずに二輪草   林昭太郎

★二輪草とは金鳳花に似た白い可憐な花である。ひとつの根から2本の花茎が伸び、仲良く咲き揃う。ひとりっ子の「唯一の存在」という家庭内での特権は、にくたらしい兄弟のある者からは羨ましい限りであったが、やはりたったひとりで風に吹かれることは心細いものなのかもしれない。(あき子)

初神籤双子姉妹の見比べて   ハジメ

★背丈も顔も何もかも、殆ど同じ人間が自分以外に存在するというのはどんな気持ちなのだろう。その上、みんなお揃いの服装をしているのだから、双子であることを衆目へ知らしめる強調にもなっている。その双子が今引いたお御籤を見せ合っているのである。何もかも同じ双子でも、お御籤は同じにはならないのである。ふと人生を感じさせるシーンである。(喜代子)

兄の黙弟の黙寒雀   正

★枯木から枯原へ、やはり枯れ色の雀が群れをなして行ったり来たりしている賑やかさには、目を奪われるものである。兄も黙って、弟も黙って同じ雀を眺めていた。同じ空気の中に居るだけで充足するものが伝わる兄弟。この兄弟は少し長じた兄と弟なのであろう。(喜代子)

菖蒲湯や兄弟いまだ蒙古斑   えなみ伸茶

★五月五日の菖蒲湯は中国の「浴蘭節」に由来するという無病息災の習わしである。とはいえ、まだ幼い兄弟が神妙に湯に浸かるわけもなく、いつもと違う様子にはしゃぎっぱなしである。風呂場にいる長い時間に関わらず、肩などまだ冷たいまま出てきて「あと50数えてきなさい」と、戻されたりする。いまだふたりに揃って記されている蒙古斑が、子供時代の残り時間を表していることは、大人だけが知っている。(あき子)

兄弟の寿限無すらすら寒に入る   米川五山子

★年の近い兄弟ほど競って何かを覚えたがる時期がある。「寿限無」は長屋の八五郎が和尚さんに「おめでたくって、長生きが出来そうで、食いっぱぐれのねぇ名前」を付けてもらった上三文字、その後延々百文字が続く究極の長命祈願の名である。幼い時分に暗記したものは、すっかり忘れたと思っていても何かの拍子に口につくものだ。そうして、その時代の空気を、家の匂いを思い出すのである。(あき子)

姉は父弟は母似初写真   なかしま しん

★わが身に置きかえみても、私は父親似、弟は母親似である。しかし、姉と弟も、目やら口やら、やはりどこか似ている。容貌のみならず、仕種にも家族は似通うことがある。例えばくしゃみの後、例えばちょっとした失敗の後。格好いいとか悪いとか、そんな個人的な気持ちには一切関係なく、それはまるで一家のルールであるかのように、親から子へと伝播される。(あき子)

兄弟の揃いて庭の古みかん   ふじけん

★兄弟がいつも一緒に居るのは、幼いときだけである。それ以後の月日では、兄弟が揃う、ということが特別な日なのである。見馴れた庭には 幼いときと同じように蜜柑が色づいているのだが、誰も採らないで古びていく。(喜代子)

青林檎似るも似ないも従兄弟達   徳子

★青林檎は、ここでは赤くならない種類を指しているのだろうと思う。赤い林檎と青い林檎が、兄弟とは少し違う血縁関係で結ばれた従兄弟たちを象徴しているのである。青林檎、そして「似るも似ないも従兄弟達」と一気に読みおろすことの出来る勢いが、まだ若々しい従兄弟たちを想像させる。(喜代子)

おねえちゃんだけがサンタを信じてる   正

★サンタがいないことなんて、もうずっと前から知ってるけど、姉に従う、という弟としての重大な役割だってある。サンタ不在の真実を告げて、悲しむ姉の顔も見たくはない。などと、姉よりずっと大人びた弟の胸中である。しかし、姉だって、弟に夢を与え続けたい一心の下手な芝居をうっているのかもしれない。子供同士というのは、大人が思っているよりずっと、繊細で思いやり深いものなのだ。(あき子)

愛弟子を無言で鍛へ松手入   ハジメ

★昭和初期、イギリス外交官の夫に伴って来日したキャサリン・サンソムの『東京に暮らす』(岩波文庫)では松手入の時期の風景を「松の手入れの時期、東京の町のあちこちで男たちが猿のように枝にまたがって、あるいは長い梯子の上から身を乗り出して松葉を梳いていきます。パチンパチンという鋏の音がすると思うと、木の上の方に座っている年老いた醜い鳥のような人が庭師です」と友人に書き送っている。彼女は、新しくしつらえた自分の庭で、庭師と弟子たちとのやりとり(一切口を開かず指示する様子)を、まるでオーケストラの指揮者のようだという。彼らの無口で不愛想な仕事ぶりに溜息をつきつつ、日本の庭の美しさに目をみはるのである。(あき子)

頬被り姉の眼のよく笑ふ   顎オッサン

★「頬被り」とは寒風を防ぐために手拭いなどをかぶること、とあるが、現在では朝市のおばさんくらいしか見覚えがない。掲句の姉は、もちろん朝市のおばさんではなく、掃除か何かの際に、ひょいと姉さまかぶりをしていたのだと思う。姉の姿にどぎまぎする弟の視線にぶつかり、姉は微笑む。「姉さまかぶりはお嫁さんの顔になる」ことを、弟は切なくも知るのである。(あき子)

姉の紅筆捨てっちまふ聖夜かな   坂石佳音

★家族揃っての楽しいクリスマスに、姉の席は空いたまま。聖夜にいそいそと出かけてしまった姉の化粧台から紅筆を取り出す。幼い妹はそっと唇に当ててみる。鮮やかな朱色が、今までどこにでも一緒に連れて行ってくれた姉をさらってしまった悪魔の色のように思える。その魔法の杖のような紅筆を遠くへ、うんと遠くへ放り投げてしまうのだ。(あき子)

兄弟姉妹はたまた従兄弟寒昴   中土手

★兄弟の数はかぞえられるが、従兄弟となるとややこしくなる。そのうち従兄弟たちも長じていくと、再従兄弟(はとこ)と呼ぶらしい。そうなったらもう誰も数なんかぞえない。冬空の星たち、中でも昴は肉眼で見えるのは数個だというが、本当はたくさんの星の集合体なのである。兄弟は地の星というべきだろう。(喜代子)

姉さんが欲しいと泣いたセロリかな   きっこ

★セロリは不思議な食べ物。味が有るような無いような、それでいて食卓のグラスにそれだけが、特別なもののように挿してあったりする。姉さんが欲しいと泣いたのはいつだったか。セロリを噛むのに少し力が必要だった。(喜代子)


予選句

親なくて妹ひとり卒業す以和於
如月の姉のキャンパス布である牧野 洋子
引き綱も尻尾も止めて花の兄坂石佳音
ねぇちゃんが独り占めする雛の部屋司馬
誘われて祝寿姉妹の梅見かな山形 キン
また一人逝きて彼岸の酒宴かな童宗
頬白の奥の弟呼びにけり牧タカシ
にと笑ういもうと歯に海苔つけたままえなみ伸茶
淡雪や兄姉なくて母逝けり司馬
冬林檎姉妹の頬のようであり舞姫
人生を句集に残し母の兄曇遊
弟に点す門灯むかご飯秋山博江
兄弟といふもの持たず雛の市林昭太郎
妹に貰うしかないバレンタイン未月 葵
妹に頼る看取りや小晦日小川瑞穂
姉の忌の問わず語りに炭をつぐはら おさむ
えんどうのさやのおうちに三兄弟曇遊
弟か聞かれて答え妻ですと曇遊
妹のポジションにおり寒雀花茨
大根の太くありたる姉御肌花茨
古希超えし兄弟三人墓洗う上村晶司
妹はケーキをつくる冬苺曇遊
弟を待てば父の手歌がるた坂石佳音
妹は三つ子の魂しっかりさん曇遊
兄逝きて義姉病む庭の寒雀やすか
姉がゐて宝塚なる初芝居平田雄公子
兄弟に年功序列お年玉平田雄公子
遠くなる姉妹それぞれ雛祭り野乃野帳
弟を負ひて小さき手毬唄海斗
兄弟でサンタのうわさこっそりと曇遊
弟子連れて年頭回礼のある世界法花
兄よりも重たき園児十二月米川五山子
沢庵や兄に習いし好き嫌い米川五山子
声の似る姉と妹春の月夏海
弟の大声響き室温しふじけん
川の字になるや姉妹の干蒲団顎オッサン
弟よすこしだけ冬をいれよう海月
読書家の姉なりしかな康成忌岩田 勇
兄一人雛の宵に生まれしと夏海
炉話や妻のをととの良寛似たかはし水生
はらからてふ疼きこつんと寒玉子坂石佳音
妹を諭す幼や胡瓜揉み美和