川島由紀子句集「スモークツリー」 1952年生 「船団の会」所属
ことばから言葉への着地の方法が、坪内稔典氏の主張である。この句集は、その飛躍が面白い。
山を見て湖見てわたしふきのとう
きさらぎの光のテイッシュつまみあげ
横歩きする蟹と私と春の月
打たれたい大夕立に尾びれまで
ぎんいろの鱗で来なさい月の夜
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小久保佳世子「アングル」 1945年生 「街」所属
一億の蟻潰しゆく装甲車
花種に似たる薬を五粒ほど
熱帯身体の中を列車音
きりぎりす遠き床屋へ行つたきり
紫陽花は昨日の日本海の色
真直ぐに冬木のままで待つてゐる
熱帯夜の中の列車音はまことに実感しながら、かつ詩を内包した風景。「真直ぐ」の物語性もまた想像力を膨張させてくれる。前記の「スモークツリー」と同様にこの句集名もカタカナである。そのカタカナを選ぶところから、この二つの句集の出発はありそうだ。