第二句集『螢袋に灯をともす』

蝙蝠やうしろの正面おもひだす
端居して帰りゆき処のなきごとし
空也忌の闇が動いてくるやうな
逢ひたくて螢袋に灯をともす

第三句集『硝子の仲間』より

ストーブに貌が崩れていくやうな
穂薄も父性も痒くてならぬなり
  雛流す水を選んでゐたりけり
緑陰を大きな部屋として使ふ
空蝉も硝子の仲間に加へけり
生きること死ぬことそれより鰊群来

第四句集『嘘のやう影のやう』

箒また柱に戻り山笑ふ
ゆく春のふと新宿の曇空
花の咲くところは風の吹くところ
花果てのうらがえりたる赤ん坊
薔薇園を去れと音楽鳴りわたる
古書店の中へ枯野のつづくなり
草紅葉足を運べば手の揺れて

プロフィール

岩淵喜代子(iwabuchi kiyoko)
1936年10月23日 東京生まれ。
俳人協会会員。日本ペンクラブ会員。日本文藝家協会会員。世界俳句協会会員
句集に第一句集『朝の椅子』、
第二句集『螢袋に灯をともす』(第一回俳句四季賞受賞)、
第三句集『硝子の仲間』、
第四句集『嘘のやう影のやう』、
恋の句愛の句『かたはらに』(第二回文学の森優良賞受賞
現代俳句文庫『岩淵喜代子句集』、
俳詩集『淡彩望』連句集『鼎』など
評伝『頂上の石鼎』深夜叢書 埼玉文芸賞受賞

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